4画面の雑記帳

思ったことをつらつら書いてく雑記帳

たらちねジョン「海が走るエンドロール」を読んだ

これは2巻以降も期待できるぞ!

 

f:id:Blog_4gamen:20211215222854j:plain

www.akitashoten.co.jp

 

秋田書店から出版されている「海が走るエンドロール」を読みました。買ったきっかけは少し前にTwitter上で1話の試し読みが流れて来てビビッと来るものがあったためでしたが、その後まもなく「この漫画がすごい!2022」オンナ編1位を飾った話題性もあるなどタイミング的にもホットな1冊。

 

65歳にして夫と死別した主人公の「うみ子」、近所の美大に通う映像専攻の「海(カイ)」。1巻時点ではこの2人の出会いと、今後の人生を大きく変えるであろう「映画を撮る側」への船出が描かれる。題材こそ映画であるものの、吹き出しの形状やサイズ、コマ割りによって静寂や心境を見事に描きあげたスタイルは舞台向きかな?とも感じている。少人数編成というのもあって、どこかの劇団で公演してくれれば足を運びたいかも。

 

本作の描写的特徴として、うみ子の心境変化を波や渦、場合によっては雨粒と言った水の流れに見立てる表現が挙げられる。第1話でうみ子自身が映画を撮る側の人間だと自覚し、止められない感情が波となって足元をすくっていく描写にはゾクゾクしてしまった。第1話は上記リンクから試し読みできるので、騙されたと思って読んでみて欲しい。

 

カイとの出会いによって自分のやりたい事=映画を撮ることに気づいたうみ子はこれを「目の前に海があることにきづいた」と言い、撮る側となることを「船を出す」ことだとも表現している。大学時代にヨット(ディンギー)に乗っていた経験のある自分にとって船を出すと言う表現は非常に身近でありながら、同時に非常に困難で恐ろしい事にも感じられる。

 

第3話の面接終了シーンで砂浜から波打ち際へ船を押し出すシーンが描かれているが、実はあれが本当に辛い。。。水上を進むための船は当然ながら陸を進むためのものでは無く、いかに砂浜といえど数mの距離を押し込んで浮力を得るまでは相当のパワーが要る。何も知らないうちなら我武者羅に押し進めるだけかと思ってしまうが、1度浮力の偉大さ、海上を走る楽しさを知ってしまった人ほどこの数mはなんとも遠い数mだ。まぁ、実際は船台と呼ばれる車輪付きの台に載せて運んだりするのだが、車輪が砂浜に埋もれて別の地獄を味わったりもする…。

 

本作1巻の締めとなる第5話ではうみ子が何を映画に撮りたいかに気付き、本格的な船出に差し掛かるところで一度幕を下ろす。タイトルから察するに、本作はうみ子の船出は映画におけるオープニングに過ぎず、これから様々な波風に煽られ、時にはベタ凪にハマるなどしながらエンドロールへと向かうことだろう。

走り出した船は元の浜辺へと戻ってくるのだろうか?それとも対岸へ?はたまた外洋へ向けた大航海をするのだろうか?どういう展開が待ち受けようとも、1度海へ出てしまったうみ子はエンドロールの後に最初の数mがどれほど厳しくどれほど価値のある距離だったかを知るに違いない。そんなうみ子とカイの今後に期待しつつ次巻の発売を待ち望んでいる。

 

 

 

~余談~

心理描写を水で表すマンガと言うと郷本先生の「夜と海」(芳文社)が思い浮かぶ。

 

f:id:Blog_4gamen:20211216000927j:plain

www.cmoa.jp

 

海が走るエンドロールとは全く別ジャンルではあるものの、独特の世界観や、登場人物の少ない構成が似てるなーと思いました。こちらの作品こそ要点だけ掻い摘んで説明して!って言われても無理と即答してしまう不思議な作品なので、興味ある方はぜひ読んでみてください。単行本3巻で完結済みです。

 

 

ではでは