4画面の雑記帳

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伊予原新「月まで三キロ」を読んだ

理系作者の短篇集。

 

伊与原新 『月まで三キロ』 | 新潮社

 

伊予原新「月まで三キロ」を読みました。

本作には表題作を含む短篇が6編収録されています。手に取ったのは本屋に並べられていた時にピンと来た、いわゆるジャケ買いだったので作者も作品も全く知らない状態から読み進めることになりましたが、なかなか他には無い作風で面白く読み進められたなと。

というのも東大理学部地球惑星科学専攻博士課程修了というなかなかに尖った著者来歴。自然科学、中でも宇宙や鉱物をテーマとした話が多く、かと言って専門用語を理解していないと話についていけないような構成にはなっていないのがありがたいですね。どこにでもありそうな風景の中に、確かな知識量に裏付けされた専門的視点が1つまみ入り込むことで世界の見え方が変わってくるのがどの作品にも共通するポイントでした。

巻末の特別対談でも小説と科学論文の書き方の違いに触れており、過不足なく情報が伝わることを重視した作風には好感が持てます。創作と言えども言葉選びは著者のバックボーンに大きく影響されるんだなぁと。

 

収録作の中でも特に気に入ったのが「アンモナイトの探し方」「山を刻む」の2つでしょうか。

どちらの作品も語り手となる主人公は今の生活に(生きる上での)不便はないもののどこか満たされていない人物。そこへやはり両作品とも崖から岩石を採取するおっさんが登場するのですが、彼ら人間が語るストーリーではなく物言わぬ鉱物の中に何かを感じ取った主人公たちが自発的に将来の選択肢を掴む行動に出るのが印象的。どうしても人に喋らせすぎると説教染みてしまう所の塩梅が絶妙に感じました。

専門は違うものの、割とモノ(無生物)はしっかりと観察すれば雄弁に語ってくれるんですよね。僕にも何度かそういう経験はあります。理系あるあるかしら(?)

 

新潮文庫の100冊シリーズにもラインナップされている1冊ですので、気になった方はお手に取ってみてはどうでしょうか?

 

ではでは