4画面の雑記帳

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シナリオイベント「天檻」を読んだ ~止まった時間と進む物語の狭間で~

天檻はいいぞ!

 

 

先日実装されたノクチルの新シナリオイベント「天檻」を読みました。今回はネタバレ有りで感想を書いていこうと思いますので、シナリオ未読の方はブラウザバック推奨です。

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレあり

 


 

◎シナリオタイトルと予告動画

今回のシナリオはタイトルのつけ方からしてノクチルの初イベント「天塵」を強く意識していているのが伝わってきます。夜光虫(Noctiluca)の名を冠するユニットだけあり、水や風、海をコンセプトにしたシナリオ名が多く、今回の天檻では文字の一部がクジラになっているのがお洒落ですね。「塵」や「檻」といったマイナス寄りのイメージを持つ文字に対し、それ1文字で大きくプラスのイメージがある「天」と合わせるの造語センス良いな~って感心してしまいます。

 

 

さて今回のイベント概要欄を見ると寓話の一節の様な語りから始まり、ノクチルの4人がそれぞれソロ活動を活性化させ始めたと続きます。この概要は公式Twitterに投稿されている予告動画でも確認することができますが、予告編には寓話の後に1フレーズ「大きく美しい獣とそれを追うもののドキュメント」という文言が入っており、物語全体を通して、また、ノクチルというアイドルユニットの在り方を象徴する一言のように感じます。

 

 

 

◎オープニング「やつらのゲーム」

ノクチルが招待されたのは何やらすごいパーティー。すごい経営者とすごいアーティストとすごい投資家とすごい料理人とすごいモデル達が集まるすごいパーティー。ただし円香に言わせれば「全部 "自称"」 。実態はどうあれ彼女らにとっては全員ただの知らない人。お揃い衣装で身を包んでみても、ココジャナイ感は拭えない。

 

↑ ノクチル専用衣装「アソヲトパッフェ」の交換チケットが6/30まで販売中(宣伝)

 

会場では真偽不明のオフレコ情報が乱れ飛び、知った顔してすり寄る者や経営戦略を説く者で溢れている。ノクチルの4人は息をするのも苦しいと言った顔。

そんな中、浅倉透は突然飛び込んだ。プールへと。

 

 

突然の事態に困惑する人、これぞノクチルと絶賛する人。そんな他人なんてお構いなしに円香、雛菜、ついには小糸までもが次々とプールへと飛び込んでいく。

 

 

青い

 

陸を離れて飛び込んだ水の中、透はただそう一言つぶやく。

 

実はこのオープニングコミュ、水の中に飛び込むまで一切のBGMが鳴っていない。雑音ばかりが飛び交う退屈な会場から走り去るかの如く、唐突に無計画に飛び込んだはずの水の中は彼女らにとって陸よりよっぽど音のある世界だった。

誰かになる必要なんてない――

そんな独自の哲学を持つ彼女らにしか聴こえない音や世界があるのかもしれません。

 

noctchill (ノクチル) | アイドルマスター シャイニーカラーズ(シャニマス)

 

ノクチルが水に飛び込む光景といえば、なんといっても最初のシナリオイベント「天塵」のラストシーンを思い出さずにはいられません。

 

 

誰も観る者がいない彼女らの初ステージ「天塵」に対し、ステージですら無いのに誰もが目を向け我先にと後へ続いていく「天檻」。生々しすぎる2つの対比は冒頭のイベント概要へと続くのでしょう。

 

少女たちにとって、この時間は早く来すぎてしまった将来なのだろうか?

それとも遠い先から打ち寄せる、小さな波にすぎないのだろうか?

 

 

◎暴れ出す獣たち

オープニングから早々に話題を掻っ攫っていったノクチルの元へ、パーティー参加者からプライベートで1曲歌わないかとオファーが届く。相も変わらず透メインでノクチルのメンバーもご参加どうぞの天塵構築。違う事と言えば悪目立ちした "前科" に加え、個々のメンバーにも仕事が入り始めていることくらい。彼らの中ではノクチルはいつも一緒の仲良し幼馴染4人組のまま。浅倉透と他3人のまま。

 

 

なんで観たいんだろう、と透は問う。

 

 

「勝ってるやつのにおいがするから」集まってくる。

シャニPがそんな話を直接伝えてしまうほど肝の座った性格であるはずもなく、オファーの話は着々と無難に、しかし特に面白みも無く進んでいく。

 

↑ オファーの歌を練習中、樋口に歌ってもらう交渉中の浅倉。

 

 

天塵の初ステージの時と同じく、シャニPは取ってきた仕事を受けるかどうかの最終判断をアイドルに委ねる。これはノクチルに限らず他ユニットでもほぼ共通しているのでP自身の基本方針だと思われます。靴に合わせろなんて言うPがいるわけ無いよなぁ、努?

アイドルとして輝きたい、誰かに幸せを届けたい、あるいは誰にも負けないステージを作りたい。そんな方針の固まったユニットであれば、知名度の上がって来た今の283プロでそこそこの仕事を見つける事はできるのかもしれません。しかしノクチルにはそんな方針が無い。だから結局来るもの拒まずになってしまい、しかも最近では想像もつかない所から悪くない仕事が入ってきてしまう。だからPも判断に困る。そして困ったままの判断をアイドルに委ねてしまう。

 

 

「……言ってよ。出てくれ、って。」

 

ノクチルの面々は多くを語らないが、それは幼馴染ゆえの魔法のような以心伝心が出来てるからでは無いように思う。

 

感じた熱を的確に表す言葉を持たない透。

語彙も思考も鋭いが達観し過ぎた性格から言葉を発しない円香。

相手の思考を推し測り身を引き勝ちな小糸。

在りたい姿がみえているので語る必要のない雛菜。

 

四者四様の理由で多くを語らないものの、そこに確かな熱は存在する。

「うぃー」「やるか」「う...うん」「やは~」

こんなやり取りでも意思疎通が図れてる奇跡。彼女らはまるで独自の言語を持っているかのようだが、人の身であるPとの意思疎通はなかなかに難しい。

熱を帯び大波を巻き起こして走り去る獣たち。しかしこの獣はやけに熱に敏感で、本気でぶつかってこない相手をいとも簡単に見抜いてしまう。果たして今のシャニPは本気でぶつかっているのだろうか?

 

 

そうこうしているうちにオファー当日がやってくる。プライベートなパーティーで1曲歌う。オーナーも何か明確な仕事をノクチルに依頼しているわけではなさそうだ。大抵のことは予想通りになってしまうから、びっくりするようなことが少ないんだとか。だから面白い人と聞いた透を呼んでみた。言ってしまえばオファーの理由はそれだけ。

 

舞台をあげるから好きに使ってとのこと。

 

ダンスホールではDJの音楽に合わせて客が踊る。

 

円香に言わせれば趣味の悪い場所らしい。

 

ワインを卸す仕事をしていると言うオーナーの私室に招かれた透は、今初めて封を開ける50年物のワインについて語られる。何やら作柄のいい歳のブドウだけを使い、50年寝かせたヴィンテージワインなんだとか。

 

 

相変わらずの独特な浅倉構文ではあるものの、GRAD編を読んだ方にはこれが最高級の褒め言葉(かもしれない)と分かるかもしれない。

オーナーはこのワインについて続ける。開ける時を間違ったら、もうダメ。開けてみるまで分からないからいつも驚く、と。

 

与えられたステージの時間が近づき部屋を去る透。その去り際に一言だけオーナーに伝える。

 

「じゃ、50年後に」

 

ステージの準備に入り、もうPはフロアに戻っていいと伝える透。そしてやはり去り際に一言だけ伝える。

 

「ごめん」

 

ステージに上がる前に円香に接触する透。

 

「ねー、奢って? じゃあ払うから、67円」

 

獣たちは暴れ出す。

 

 

透が歌うはずのステージに立っていたのは円香だった。

 

 

 

透のためのステージ。好きに使っていいと言われたステージ。

だから買いたい。歌を、透の聴きたい歌を。

 

 

有り得ない。まともな思考ならまず有り得ない発想。

しかもギャラは67円。3回200円で買った円香に歌ってもらう権利のラスト1回。

安すぎる。でも

「ここ全部もらってくっているのは、いいかもね」

2匹目の獣が暴れ始める。

 

息してる。

 

熱狂するフロアを横目に雛菜と小糸も合流してノクチルは逃避行を始める。

歌う約束は1曲だけ、あとは入退室自由だったはず。何とも幼稚でワガママな言い分かもしれない。それでも獣たちの残したフロアには熱が渦巻いていた。

 

フロアを脱出し自由を得た獣たちの顔つきはこのシナリオ内で最もいい顔をしていた。

獣に50年待ては無理な注文だったのかもしれない。

 


◎檻に抑え込めない獣たちの帰る場所

ステージジャックを成し遂げ会場からの逃避行を遂げたノクチルの4人に対し、珍しく苛立ちを隠せないでいるシャニP。Pの焦りとは裏腹に面白いものを見せてもらったとご満悦なオーナー。請求書には好きな額を書けばいいと言うのだからよっぽど満足したのだろう。

ここでPの心理描写をエンジンを吹かす音で代弁させているのが流石はシャニマスライター君、いい腕の見せ所。小説でもドラマCDでも無く、サウンドノベル形式だからこそできる表現方法を色々と模索してくれるのはありがたいですね。

 

 

分かってはいると自分に言い聞かせてみても、「プロデューサー」として「アイドル」を管理しきれていない現状に納得がいかないのだろうか? 彼の脳裏をよぎるのは今回の件で謝罪に走り回った際の広告ディレクターとのやり取り。

 

「従順な売り物を作るって意味では、失敗かな?」「『彼女たちは売り物じゃない』 じゃ、何?……っていうね」

 

アイドルと言ってもその在り方は多種多様で、特にノクチルの4人は登場の仕方からしてアイドルの根本を覆すような異端児であることは間違いない。支えるべきなのか、見守るべきなのか、寄り添うべきなのか、助言をするべきなのか....。そんな苦悩が顔に出ていたのか、その表情を「いい顔」だと広告ディレクターは言う。

 

「あんなクジラみたいなの、入れとく生け簀なんてないですよ」

 

 

その頃、パーティ会場を抜け出したノクチルの4人は事務所近くの河原まで来ていた。

 

 

「逃げよう、追いつかれるまで」

 

そう言いながらもPへと場所を伝える透。それでも歩くことをやめようとしない。事務所とは反対側、川の下流へ、目的もなく。

 

 

すっかり空も暗くなったころ、シャニPは4人に追いつく。

 

透「怒らないの?」

P「怒ってる。でも......わかってやってる事なら、説教じゃ止められない。――それに、よかった。ノクチル最高だって、思ってしまった。」

 

ここに来るまでの時間、Pもさんざん悩んだのだと思う。

海は彼女たちの心に広がっているもので、すごく大きい。外側へ出ていくならまだしも、内側へと泳いで行ってしまう相手に航路を示すことも、助け舟を出すことも簡単な事ではなく、止めることはできない。しかし同時にそれは最高の景色だとも思ってしまう。思ってしまわされた

 

 

「陸でいたい」

 

これがシャニPの出したノクチルと向き合うための答えだった。

そして同時に諦め覚悟をきめた瞬間だったように思います。

ノクチルにとって最初のファンである自らがどこかで「アイドル」像をを求め続けていたことへの諦め、そして、自由に泳ぎ回る「美しき獣たち」の管理責任者であり続けることへの覚悟。もしかしたらシャニPはこの瞬間、ノクチルと初めて向き合えたのかもしれないとさえ感じます。

 

きっと彼女らは自分がいなくたってどこか好きな所へ泳いで行ってしまう。それこそ「あの花のように」の歌詞にあるように、「息継ぎもしないで泳いで」行ってしまうかも知れない。しかし大人であるところのPはそれがベストではないと感覚的・経験的に分かってしまうのではないでしょうか?

彼女らはアイドルだから、仕事だから、幼馴染だから、ノクチルだから今を生きているわけでは無い。透が、円香が、小糸が、雛菜が。彼女ら1人1人がそれぞれ考え、感じながら今を生きている。気持ちよく泳いでいる今が楽しくとも、次の瞬間に疲れ果てて溺れてしまわない保証はどこにもない。

そうやって疲れてしまった時、ちょっと海は飽きたなぁと感じた時、いつでも帰ってこれる確かな陸でありたい。Pはそこに自分の居場所を見つけたように思えます。

 

 

実際に迎えに行った時の彼女らはそれなりに疲れているし、見通しも悪くて食べ物も持っていない。そんな彼女らを迎え入れる陸として最初の役目を果たせたのではないでしょうか?

 

 

場面は変わって透の部屋に集まるノクチルの面々。小糸にはまだ言い出せてなかった悩みがあった。ノクチル4人に届いたゴールデンタイム向けのオファー、小糸個人に届いた大学オープンキャンパスモデルのオファー。2つのスケジュールは重なってしまいどちらかしか選べない。

Pは小糸に選択肢を増やすと約束する。他人の思考を推し測りがちな小糸にとって、安心して帰れる場所は重要な意味を持つ様に思えます。

 

何度離れたって戻ってこれる。ノクチルでいること、いつも一緒の仲良し幼馴染グループであり続けること。そうした制約はみんなが帰って来ると分かっている場所さえあれば取り払うことができる。

 

シナリオ中盤から答えを出せず独り悩み続けていた小糸も、帰ってこれる陸を得てようやく動き出すことができた。

 

「相談したいことがあるんだ」

 

どんな結果になっても "また" 遊べるんだという安心感。小糸には笑顔で居て欲しい。

 

今ここから陸を得た新しいノクチルが始動するのだろうという確信めいた予感がある。



◎初めて追いついた物語の時間軸

ノクチルはシャニマス2周年に合わせて追加実装されたユニットで、初期4ユニットや1周年記念に合わせた追加実装組のストレイライトと比べるとメインシナリオの展開速度が速いと言う印象があります。3rdライブに合わせてソロ曲をリリースしたかったというメタ要素はあるにしろ、こんな猛スピードで走り抜けてしまった事で歪みが生じてしまわないだろうかというのは正直言って不安な点でもありました。

今回の記事を書くにあたって改めてメインシナリオ実装日を確認してみると、初期4ユニットと比べておよそ半分の時間でLP実装までを済ませています。何というハイスピード...。

 

 

今回のイベント内には「息してるだけ」「捕食者」といった透のGRADシナリオで登場する台詞が散りばめられるのが印象的でした。シナリオ概要にもソロの仕事が増えてきたと書かれている様に、ユニットの成長譚として見るならGRADに対応するイベコミュかなと言うのが最初の印象です。

初期4ユニットから見ればGRADは3年目のシナリオであり、ノクチル実装から3年目となる今のタイミングで天檻が描かれたことには重要な意味があると考えます。

 

 

もう一度冒頭のシナリオ概要に戻ってみると、「少女たちにとって、この時間は早く来すぎてしまった将来なのだろうか? それとも遠い先から打ち寄せる、小さな波にすぎないのだろうか?」という問いかけが。

この問いかけではいつか訪れる大きな波に期待しつつも、その波の到来が早すぎたのではないかと思案しているように思えます。しかし、天檻を読み終えた今の率直な感想としては、「早すぎた波の速度に観測者たる我々 "プレイヤー" がようやく追いついた」という印象です。しかも追いついたと言ってもまだそれはGRAD時空に追いついた程度で、既にLPやSTEPと言った次のステージへと歩みを進めているノクチルの "今" には追いつけていないとさえ言えます。

 

ここで1つ過去のインタビュー記事を紹介させてください。

 

dengekionline.com

 

この記事はシャニマス制作プロデューサーの高山さんに電撃オンラインが取材を行った内容になりますが、シャニマス内の時系列や時間経過について触れた質問がいくつか出てきます。以下、気になった部分をざっくりまとめます。

 

①WING→感謝祭→GRAD(当時最新シナリオ)までの時系列は明確な順序がある。

②他のカードシナリオはざっくりとした時系列しかきめていない。

③高校生組の進学などドラマチックな時間経過を加える要素は現状考えていない。

④一方で、関係値の蓄積による変化は描いていきたい。

⑤(天塵を例に挙げつつ)どのユニットにしても1回のイベントで全てを理解できるような形にはしていない。

 

これらのインタビュー内容を踏まえると、

 

・メインシナリオ以外のシナリオは必ずしも実装時の関係値に紐づかない(①+②)。

・ゲーム内の時間は進まない(進級しない)が関係値の蓄積は進んでいく(③+④)。

・ノクチルが無観客の天塵とファンで溢れた感謝祭編を並行して描かれていたように、まだ観測されていないだけの将来の姿が描かれる可能性はあり得る(⑤)。

 

個人的にこの辺りに注目しています。

観測者である我々は既にノクチルがGRADを越え、Landing Point の単独ライブをこなしている姿を知っていますが、それに対応するような未来のコミュをまだ知りません。「天塵」実装時に「天檻」の姿を想像できなかったように、我々は常に事象の後追いをせざるを得ない立場にいるのではないか? その上でようやくGRAD時空まで追いついた。次はLP時空に追いつけるかもしれないが、その頃にはさらに先の関係値が示されているかもしれない。

ノクチルのコミュに関しては、決して実態を掴ませない絶妙な間隔で先を行く波を後追いするような心地よい違和感を楽しんでいます。この先も目が離せませんね。

 

↑いつか女子高校生じゃなくなるかもしれないが、ゲーム内にその日は訪れない。

 

 

◎おわりに

かなり長くなってしまいましたが読み応えばっちりで考えることも多く、個人的にとても好きなシナリオになりました。檻に収めておけない獣たちとまで言われると文字面は物騒ですが、ノクチルの本質をよく言い表してるなぁと感心してしまいました。プロは凄いなぁ…。

 

放クラPの自分としては『轟!-とどろき- 紅蘭偉魔空珠†番外地』みたいな世界線でノクチルと放クラがぶつかる姿なんかも見て見たいですね。相合学舎の縁でコラボしてくれませんかねぇ、見ない顔でも良いので!

 

 

アイドル優等生でありながら意外と頑固で譲らない所は譲らない性格の凛世なんかとはガチのぶつかり合いをして欲しさあります(笑)

 

「我は…自由のための…導火線なり…!」

 

とにもかくにもPの覚悟を持って次のステージへと昇って行った新生ノクチルの今後の活躍から目が離せませんね。

 

ではでは