4画面の雑記帳

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ippatu「虎鶫 – Tsugumi Project」とフランスのマンガ事情

海外のマンガ事情知りたくない?

 

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kc.kodansha.co.jp

 

先日5巻が発売された「虎鶫 – Tsugumi Project」を読みました。

 

本作の舞台は260年前の核戦争によって一切の文明が滅びた「旧日本」。放射線で汚染された土地では従来の枠組みを超えた異形の生物たちが新しい社会生活を形成しています。

本作の主人公の「レオーネ」は祖国フランスの元軍人。無実の罪から死刑囚となってしまうが、旧日本に眠るとされる秘密兵器の捜索・回収を担う極秘任務を成功させれば国は滅罪を約束すると言う。かくして魔境「旧日本」を舞台としたサバイバルが始まる...。

 

物語の導入はこんな感じで、ジャンルとしてはポストアポカリプス系SFと言った所。1巻表紙にも描かれた鳥脚の少女「ツグミ」、大型トラック程の巨躯を持つ虎のような生物「トラ」、こちらも鳥脚だが頭巾をかぶった大猿のような姿の「サタケ」、ペルシャ出身で地下賭博格闘場のチャンプ「ドゥドゥ」など魅力的なキャラクター達が物語を織りなしていきます。

現代日本人の我々からすると見慣れた街並み(1巻では新宿など)が荒廃した姿となって度々出現し、その圧倒的な書き込みによって描写される無機質ながらも圧倒的存在感のある廃墟の数々には圧倒されます。

試し読みはこちら↓

 

yanmaga.jp

 

本作の内容も大変魅力的ではあるものの、今回はちょっと別の視点に着目していきます。実はこの作品、日本ではヤングマガジン連載ではあるものの、フランスの漫画出版社Ki-oon(キューン)が本家連載の輸入作品となっております。

マンガ多しと言えどもなかなか聞かない連載形態だけにちょっと気になりますね。と言うか、フランス版の単行本表紙めちゃカッコイイ!映画ポスターじゃん。

 

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↑ 左がフランス版、右が日本版のコミックス1巻表紙イラスト。

 

なるほどフランスで出版されている作品という情報を入れてもう一度見返してみると、レオーネの感性や着眼点が日本人のそれとはだいぶ異なることに気づきます。皇居外苑の石垣を見て「見事な石組みの技術だ。考古学者が見たら目を輝かせるだろう」なんて台詞、日本人向けのマンガではまず出てこないと思います。日本の石組み技術は世界的に見ても独特かつ高度な技術だったと歴史の授業で習った気がする...(不勉強で申し訳ない)。

見慣れているかどうかは別にしても、他国の文化や意匠に敬意を持って接するレオーネの姿勢は見習いたい所。フランス人の知り合いが居ないので実態は分かりませんが、流石はルーブル美術館を生みだした芸術の国といった感じでしょうか?わざわざページを割いてまで丁寧に描写している事を考慮すると、フランスの読者もレオーネ同様の着眼点を持っているのかもしれません。

 

さて、こうしてフランス先行連載からの日本で追随連載形式になっている本作ですが、日本側の連載誌であるヤンマガではかなり不思議な休載が発生している事に驚いた記憶があります。公式アナウンスを1つ紹介するとこんな感じ。

 

 

『フランス版に連載が追いついてしまったため、『虎鶫』はしばらく休載いたします。』

 

追いついてしまった???

 

最初にこの文言を見た時は理解が追いつかなかったので少し調べてみた所、フランス側の出版社Ki-oon(キューン)は基本的に紙媒体の単行本を扱う会社との事。単行本1冊に4話分が収録されているので、日本風に言うなら月刊誌というイメージでしょうか?

週刊連載漫画とかいうクレイジージャパニーズカルチャー()

あちらの国は労働条件を巡って交通機関が度々ストライキ起こしてたりしますからね…。その辺りは特に配慮されてそう。逆に日本人はそういう所を個人の頑張りでどうにかし過ぎよねぇ。

 

ちなみにKi-oon社のホームページをのぞいてみるとこんな感じ↓

www.ki-oon.com

 

ジャンプ系列は海外市場への輸出に力を入れていると聞いていましたが、「薬屋のひとりごと」や「葬送のフリーレン」なんかもラインナップに入っているみたいです。どちらの作品も面白いのは間違いないんですけど、なぜそこを選んだし...と言うのが率直な感想。

翻訳には相当な力が必要なので売れそうなタイトルの選別は慎重に進められてると思うんですよね。本作「虎鶫」もそうですが、国民性なども含めて刺さりそうなポイントがあるのかもしれません。

ちょっと興味深かったのが本作がフランスでどういう風にプロモーションされたかに着目したこちらの記事↓

 

ichi-up.net

 

 

マンガというより映画っぽいですね。

お国柄とでも言いますか、普遍的国民奉仕という名前で短期間の兵役があったり、そもそも強力な核保有国だったりするので、ミリタリー描写への親密度は日本の比じゃないのかも。

フランス独自の事情と言えば、マンガを指し示す「第九芸術」という言葉があります。日本では聞きなれない言葉ですが、フランスでは第一から第八まで「建築」「彫刻」「絵画」「音楽」「文学(詩)」「演劇」「映画」「メディア芸術」の8つの芸術があるとされていて、9つ目にあたる最も新しい芸術表現に「マンガ」を入れようという意味で「第九芸術」と呼ばれているのだとか(第一から第八までの順序には諸説あり)。

今では聞かないものの、かつては日本でも頭が悪くなると言われ焚書の対象にも晒されてきたマンガが芸術だと位置づけられるっていうのは不思議な感覚ですね。クールジャパン輸出国はまるでやる気感じられないのに輸入国は興味津々という皮肉。

( ´_ゝ`) フーン

 

そういえばフランスではマクロン政権肝いりの政策である「文化パス」が18歳の国民を対象に配布されてましたね。

nlab.itmedia.co.jp

多様な文化・芸術に触れるために完全無料配布の300ユーロ(4万円相当)のクーポンでしたが、用途の8割がマンガ購入に充てられたとかでマンガクーポンと揶揄されたとか...。この勢いを見ていると、あと数年もすればフランス原産のマンガが大量に流れ込んできても不思議じゃないかなーと思いました。週刊誌は厳しそうだけど。

 

kc.kodansha.co.jp

 

ではでは