終わって始まるストーリー。
こるせ「わたしたちの終わりと」を読みました。
本作は "気づいたら人類が滅んでいた、生き残っているのは2人だけ" という終わった後の世界を描いた「わたしたちの終わりと」に加え、”巨大隕石の衝突という避けられない明日" によりこれから終わっていく世界を描いた「それではみなさんよい終末を」の2シリーズが収録されています。
作中でも触れられている様に、「わたしたちの終わりと」では未知のウイルスや人類ゾンビ化、終末戦争の類は全く起きず、ただただ気づけば人類が姿を消していた系の世界観を持ちます。大規模なインフラは停止しているものの、生存者が女性2人しかいないので食糧争いなどは描かれず、ゆるく平和で穏やかな2人だけの終わりを描いているのが特徴的。
ポストアポカリプス系によくみられるような過酷なサバイバル描写は一切なく、猟銃が出て来たと思えばそれは平和な時間を彩るスパイスだったりと緩い雰囲気が流れます。しかし、増えることも減ることもしない2人の間にも関係値の変化はあるもので、互いの辿って来た過去や想う未来が僅かにズレているのが心にチクりと楔を残す読後感。
百合描写はあるものの主軸をそこに置いているイメージはなく、世界が終わらなければ出逢わなかった2人の奇妙な繋がりとすれ違いを丁寧に描き出した作品だと感じます。僕はこういうの大好きです。
終わった後の世界を描いた「わたしたちの終わりと」に対し、これから終わっていく世界を描いたのが「それではみなさんよい終末を」。やはりメインの登場人物は2人の女性ですが、こちらは同じ学校に通うクラスの同級生。同じクラスだからといって全員と親しい訳でも無く、やはりこちらも世界が終わることがなければ親しくならなかったかもしれない関係。ゆるふわな雰囲気の漂う「わたしたちの~」から一転、王道終末系作品の風格漂う治安の悪さも描写がうまい。
明日には世界が滅ぶという状態から物語が始まるのでどう頑張っても破滅の運命しか待っていないのですが、その時に至るまでの僅かな時間を共有し、有り得たかもしれないifの時間を思い描くビターなやり取りがたまらなく愛おしい。
またしてもジャケ買いから手に取った作品でしたが、テンポよく描かれる終わりの中にしか得られない様々な思い・視点を無駄なくギュっと詰め込んだ良い作品でした。
刺さる人にはすごい刺さるが広く受け入れられるかと言うとそうでも無いかも?そんな需要のあるあなたにお勧めの1冊です。表紙でピンと来た人ならたぶん刺さります。
ではでは