4画面の雑記帳

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大隅良典, 永田和宏「未来の科学者たちへ」を読んだ

科学を文化に

 

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「未来の科学者たちへ」を読みました。

著者はオートファジー研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生とタンパク質研究でHSP47を発見した永田和宏先生。両氏の研究実績は生化学ですが内容は科学(Science)全体に言及する部分が大きく、特に研究分野が違うからと言って避けるようなことは全くありません。何気なく手に取った1冊でしたが、自分の中でモヤっとしていた部分がすっきりと整理できたような気がする良い出会いとなりました。

個人的に印象深かったキーワードとして「科学」と「技術」の関係性に絞って感想など書いてみました。

 

「科学」と「技術」

本書第六章では科学とは何かを考えるうえで、日本に浸透した「科学技術」という言葉に懸念を示しています。大隅先生の言葉ではありますが、「科学」と「技術」をセットとして捉えた「科学技術」と言う言葉が「科学」は「技術」のための基礎という認識を定着させたのではないかと。さらに「科学(サイエンス)」と「技術(テクノロジー)」は明確に別物だと続きます。

 

「科学」は「発見」という言葉で表され、自然の持つ構造・原理・法則性など人類の蓄積してきた知の総称であり、一方の「技術」は「発明」という言葉で表され、人類の福祉・利便性に貢献する人工物・創造物の総称である。

 

この認識は自分の中で長年モヤモヤしていた部分であっただけに、少なからず衝撃的な一説でした。科学・技術・発明・発見...。大学の研究室にいた頃も企業研究員になってからも、今やってるコレは何だ?どこへ向かっている?目的は何だ?といった疑問とも不安とも言えない問いが頭をぐるぐると回りつづけることが多々ありました。直近で進めていた仕事でも脳内がまさにこんな状況だったので、何か根本的な部分に欠落があるんじゃないかとすら考えてもいしたが、本書の言葉を借りるなら「科学」と「技術」を同一視したり混同していたことが原因の1つと言えそうです。

 

私は大学院時代に基礎研究寄りのテーマに携わっていたからか、ありがたいことに企業へ就職した後も開発グループ内ではかなり基礎に寄った新規テーマを担当させてもらえました。詳細については触れられませんが、ざっくり言うと「自社既存製品が参入している市場は既に飽和しつつある。このまま小さな改良を続けていっても先がないため、理論上最強の製品にチャレンジして市場を完全に掌握するか、やはり先がないから撤退するか判断せよ」みたいな感じです。やりがいはめちゃめちゃ有りますが、それ以上にハードでブラックな仕事でした...。

既存製品という先行研究がある割には社内の知見は驚くほどまとまっておらず、理論上最強を狙うはずがその理論そのものを汲み上げる所からスタートする荒れ模様。ほとんど全てが口伝…。大丈夫かこの会社?

この仕事を進めるにあたって何度もぶつかった壁の1つが社内知見のまとめ方です。製品を作るメーカーなので当たり前なのかもしれませんが、報告書に残りやすいのは効果・性能の話ばかりで理論的な部分が欠けていても製品ができていればOKの世界。世に出す以上毒性や腐食性などは当然チェックされますが、基本的には性能が良い実物が安定して取れていればそれ以上深追いしないスタンス。これが利益優先の企業研究なのかと肩を落としつつ口伝をまとめてみると、原因不明の高性能品や由来不明の添加物などが山のように出て来る有り様。

就職説明会などでは「我が社は科学の会社です」などと触れ回ってますが、本書の定義を借りれば実態として「技術の会社」だったと言えるでしょう。製品の性能は追及しても理論は追及していませんので…。

そんな状態から始めた研究でしたがどうにかこうにか理論のブラックボックスを埋めていき、理論上最強の形を提案する所まで漕ぎつけられたのはラッキーだったとしか言えません。しかし本当の地獄はここから。よく聞く話ですが、現場が「理論上可能」と上司に伝えると、上司は「必ずできます」と経営層に伝える悪魔の伝言ゲーム。できると言ってしまった手前、後に引けない状態になるとデスゲームは加速します。一気にヒト・モノ・カネが集中したプロジェクトになったことで商品化へのスピードはぐんぐん加速していきますが所詮は理論上最強。当然ながら実態と乖離した部分が多くあり、新たな謎がどんどん出て来ます。理論=科学から始まったテーマでありながら、製品=技術を追い求めるプロジェクトは新たなブラックボックスをみつけても深追いさせてくれません。「これは(理論追及=科学として)必要だ!」「いいや、これは(商品開発=技術として)必要じゃない!」といった応酬が繰り返されるのはメンタル的に厳しいものがあります。そんな所を追及していたら商品化の期限に間に合わないと。こうしてブラックボックスが積み重なってきたんだなって納得してしまいました。悲しいね。

本書を読んだ後の今から振り返って見れば、議論の対象が「科学」と「技術」で異なっていたから話が噛み合ってなかったんだろうなーと。上述のプロジェクト以外にも「科学」と「技術」を混同した議論は多く、過去のやり取りを反省するとともに今後に活かしていきたいです。本当に...。

 

あのプロジェクトに限らず理論追及しない姿勢は社内全体に蔓延しているようなので、少しでも抵抗しつつ企業風土を改善していければ良いなとは思います。

 

他にも面白い話がたくさん載っていましたので、少しでも興味がある方は手に取ってみてはいかがでしょうか?専門知識が無くてもそんなに苦も無く読めると思います。

 

ではでは